限局性前立腺がんの治療法について
画像上明らかな転移がなく、前立腺の中に留まっている段階の前立腺がんは、「限局性前立腺がん」と言われています。この場合、根治的治療として以下の様な手術と放射線療法があります。
1:根治的前立腺摘除術
前立腺を全て摘出して膀胱と尿道をつなぐ手術で、無治療の場合と較べて生存率の向上が証明されている唯一の治療です。この手術は開腹手術と体腔鏡下手術の2通りの方法がありますが、前立腺を摘出するという意味ではほぼ同じ内容です。ただし、手術に耐えられないような合併症がある方には行えない場合があります。手術の方法や合併症などについては下に説明しております。尚、体腔鏡下手術も健康診療の適応が認められています。
2:放射線療法
前立腺へ放射線を当てる治療法で、外から当てる方法(外照射)と、放射線を出す針を入れる組織内照射(内照射、密封小線源療法、ブラキ治療)があります。一般的には、放射線治療の根治性に関しては、手術とほぼ同等またはやや低いといわれていますが、癌の悪性度、PSA値、癌の部位や体積で治療成績が異なりますので、主治医にご相談下さい。合併症には放射線性直腸炎(下血、狭窄)、放射線性膀胱炎(血尿、萎縮膀胱)、性機能障害などがあります。
*外照射 前立腺へ放射線を外から当てる方法で、外来で治療が可能です。
月曜から金曜まで毎日照射して、約6週間かかります。
* 密封小線源療法 前立腺の中に放射線を出す針を入れる組織内照射で、九大では1週間 の入院で治療しています。組織内照射も同様の合併症がありますが、 長期(15年以上)の合併症に関しては現時点では不明です。詳細は、九 州大学泌尿器科のホームページ「密封小線源療法」の欄を参照下さい
前立腺癌は一般に進行が遅いため超早期の方には無治療で経過観察をするという方法も模索されています。年齢、合併症、癌の悪性度、PSA値、癌の部位や体積を考慮して治療法を選択する必要があります。また、癌が再発した場合、手術の後の放射線療法は可能ですが、放射線療法を先に行ってしまうと、後で手術を行うことは困難です。
体腔鏡下根治的前立腺摘除術の適応
当科では体腔鏡下手術を安全かつ有効に行うため、下記のような適応を設定しています。適応外の方は絶対に体腔鏡下手術ができない訳ではありませんが、お勧めはしないという姿勢です。また、逆に適応範囲内の方に対しては基本的に体腔鏡下手術で治療を行っています。
- 術前PSAが20ng/ml以下
- 悪性度(グリソンスコア)が8以下
- 前立腺体積が50ml以下
- 前立腺生検陽性率が50%以下
- 骨盤内手術の既往のない方
体腔鏡下根治的前立腺摘除術とはどのような手術か
- 全身麻酔にて行います。術中の麻酔の補助、術後の痛みを和らげるため背中から硬膜外麻酔用のチューブを入れることが一般的です。
- 臍と左右に1−2cmの小切開を数箇所おき(右下図)、体腔鏡のカメラ等を挿入します。
- リンパ節を摘出後、前立腺前面の太い血管を処理して、前立腺と尿道、前立腺と膀胱を切り離して、前立腺・精嚢をとり出します。
- 膀胱と尿道をつなぎ合わせて、尿をとりだす管(尿道バルーンカテーテル)を尿道から膀胱内に入れておきます。
- 膀胱と尿道をつないだ周辺に管(ドレーン)を入れて創を閉じます。
- 手術時間は平均6時間で麻酔時間を入れると通常8時間で手術室から戻ってきます。
- 入院期間は、合併症がなければ、通常2-3週間前後です。
 
体腔鏡下手術の切開創
図のように12mmまたは5mmの穴を開けます。
開腹手術の切開創
臍から恥骨上まで縦に切開します。
開腹による手術との違い
長所
- 皮膚切開が小さく術後の痛みが少ないのが特徴です。
- 通常、手術後の回復は早い傾向があります。
- 出血量が少なくなります。
- 内視鏡操作で行うため拡大視野での操作が可能で、細かい手術操作ができます。
- 開腹術ではほとんど一人の医師の手術であったものが手術に入る医師全員がモニターを見ながら手術に参加することができます。
短所
- 体腔鏡手術では、開放手術より手術時間が長くなる傾向があります。また、大出血が起こった場合、開放手術より止血に手間取ることもあります。
- 対象(適応)に限界があります。
- 内視鏡下手術に関する医師の高い技術が必要で、医師なら誰でも簡単にできる手術ではありません。そのため、泌尿器科の内視鏡学会では、実施できる施設基準を設定しており、九州大学病院はその基準を満たしています。
予想される合併症とその対応について
手術の内容は開腹手術とほぼ同じであるため、合併症の内容は開腹手術とほぼ同じです。
出血
前立腺周囲には太い血管が多く、ときに出血をきたします。手術前にご自分の血液を保存してこれを手術中に輸血します。これでも血液が足りない場合(10%程度)には他の方の血液を輸血することになります。また、手術終了後に手術部位に血腫を形成し再手術が必要になることもあります(1%程度)
直腸損傷
前立腺の後面は直腸が接しています。前立腺周囲に炎症がある場合や癌が浸潤している場合には直腸との間に癒着があって前立腺と直腸の間をはがす時に直腸に穴があくことがあります。小さな穴の場合にはその穴を閉じて、術後しばらく絶食となりますが、大きな穴の場合や直腸壁がうすい場合には穴を閉じるだけでなく、大腸を左下腹部から引き出して人工肛門をつくり一時的に大便をここから出すようにすることがあります。術後落ち着いたら人工肛門を閉じて手術前の状態に戻ります。まれに手術中直腸損傷が確認できず、術後にわかることがあり、緊急手術が必要となることがあります。
その他
体腔鏡手術の場合腹膜(腸管を包む膜)の中に入りますので、術後の腸管の合併症(腸閉塞、腸管損傷)可能性は開腹手術よりは高くなります(5%程度)。その他、通常の開腹手術でも起こりうる合併症として、創感染で創が開いたり、筋膜が開いて創ヘルニア(創の部分が飛び出す状態)になったりすることがあります。また、術後性肺炎が発症したり、骨盤内に液体がたまったり、鼠径ヘルニア(脱腸)になったりすることもまれにあります。リンパ節も摘出しますのでこの場合、術後にリンパ液の漏出のため骨盤内にリンパ液がたまることがあります。症状無ければあるいは軽微であれば放置しますが、感染を伴ったりした場合は針で穿刺し、排液することもあります。これらの中には再手術が必要な場合もあります。また、まれではありますが、脚の静脈に血栓ができ、手術後にこの血栓が肺の血管を閉塞する重い合併症(肺梗塞)の危険性もあります。このような場合、診断がつき次第、直ちに適切な処置を行います。
尿失禁
前立腺と尿道の周囲には尿の漏れをとめる括約筋という筋肉があります。根治的前立腺摘除術では括約筋の一部を痛める可能性があるため、術後尿失禁となります。したがって術後はしばらく尿パッド(おむつ)が必要となります。通常は1年ぐらいでほとんど漏れない状態になりますが、ごくまれに尿漏れが回復しない場合があります。一般に70歳をこえると失禁の率が高くなるといわれています。
吻合部狭窄
前立腺を摘出した後、膀胱と尿道をつないで新しい尿の通り道とします。このつないだ部分に虚血性変化(血の巡りが悪くなること)のため狭窄を生じることがあります(10%程度)。術後に尿が出にくいようなときは主治医に伝えてください。狭窄については内視鏡による再手術で狭窄部を切開することで必要です。
性機能障害
前立腺・尿道の後面には勃起神経が左右1本ずつありますが、通常の手術ではこの神経を切断するため、術後勃起できなくなります。癌の部位や広がりによっては、勃起神経を温存することも可能ですが、術後に確実に勃起能が回復するとは限りません。また神経を温存することで癌をとり残すこともあります。両側温存ならば、勃起能の回復は約50%ですが、片側の場合には10-20%程度の回復率です。また、根治的前立腺摘除術後、勃起が可能になっても射精はできません。
緊急開腹について
出血のコントロールがつかない場合や、臓器損傷を生じた場合には通常の開腹手術へ移行します。体腔鏡下手術を行うに際しては、いつでも開腹手術に移ることができるように準備して行います。
治療の根治性と再発時の治療について
摘出した前立腺を病理組織学的に精査し病理病期を決定します。それによってある程度の予後(今後の再発の可能性等)を予測することが出来ます。一般的には、術後5年以内にPSAが再上昇して追加の治療が必要になる方は10-20%程度です。再発した場合は放射線治療かホルモン治療を行います。この手術を受けて、5年以内に前立腺がんが原因で死亡する可能性は1%程度です。
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